『大倉喜八郎はかく語りき』を読んだ。
大倉喜八郎とは何者か
大倉喜八郎は、1837年に越後国新発田、現在の新潟県新発田市に生まれた実業家じゃ。
若くして江戸へ出て商売の世界に入り、幕末から明治、大正という日本が大きく変わった時代を生きた。
乾物店から商売を始め、その後さまざまな事業へ進出。
貿易や建設、製造、ホテルなど幅広い事業に関わり、大倉組をはじめとする事業を興した。
また、実業だけにとどまらず教育や文化にも力を入れた。
現在の東京経済大学につながる大倉商業学校を創設し、現在の大成建設や帝国ホテルなど、大倉と深い関わりを持つ企業・事業も後世に残っている。
明治という時代に、一人の商人から大きな事業家へと歩んでいった人物なのじゃ。
そんな人物は、仕事について何を考えていたのか。
それを知りたくて、この本を手に取った。
本を読みながら、気になった言葉をいくつも書き留めた。
気づき
勤倹貯蓄。
正直。
進取の観念。
義務を果たす根性。
辛抱。
忍耐。
細大専一。
身体壮健。
小さき成功を積み重ねる。
知行合一。
一意専心。
労働は無上の幸福である。
安心立命。
そして、
「一度事業を始めたのであれば、その事業を愛せ」
という考え方。
百年以上前を生きた実業家の言葉なのじゃが、不思議と今の自分に刺さるものが多かった。
新しいことを始めるのは楽しい
事業をやっていると、新しいものが次々と目に入る。
この商売も面白そうだ。
あの事業も儲かりそうだ。
この技術も勉強したい。
新しいサービスも作ってみたい。
新しいことを考えている時間は楽しい。
まだ失敗していないからのう。
可能性はいくらでもある。
ところが、一つの事業を続けるとなると話は違う。
地味な仕事が増える。
思ったように売れない。
面倒な問題も起こる。
毎日同じようなことを繰り返さなければならない。
すると、隣の畑が急に青く見えてくる。
自分にも、そういうところがある。
事業に関して、少し浮気性なのじゃ。
「始めた事業を愛せ」
だからこそ、
「一度事業を始めたのであれば、その事業を愛せ」
という考え方が残った。
事業を始めることより、
始めたものを育て続けることの方が難しい。
最初の情熱がなくなってからも続ける。
結果が出ない時期にも工夫する。
小さな改善を重ねる。
そうして初めて、事業は少しずつ自分のものになっていくのじゃろう。
これは「一意専心」や「辛抱」「忍耐」という言葉にもつながっているように思う。
あれもこれもと新しいものを追いかける前に、
いま自分の目の前にあるものを、もう少し深く掘ってみる。
今回この本を読んで、少し気を引き締めようと思った。
大きな成功より、小さな成功
もう一つ印象に残ったのが、
「小さき成功を積み重ねる」
という考え方じゃ。
大きなことをやりたいと思うと、
どうしても大きな成果ばかり見てしまう。
会社を大きくする。
大きな資産を作る。
難しい資格を取る。
大きな仕事を成し遂げる。
けれど、今日いきなりそこへ行くことはできない。
今日できるのは、
一つ仕事を終わらせる。
一ページ読む。
一件営業する。
一つ改善する。
昨日より少し前へ進む。
そのくらいじゃ。
派手ではない。
けれど大倉喜八郎の言葉を追っていると、
どうやら成功というものは、
そういう小さな積み重ねの先にしかないらしい。
知っているだけでは、何も変わらない
「知行合一」という言葉も残った。
知ることと、行うことを分けない。
これは耳が痛いのう。
本を読むのは楽しい。
勉強するのも楽しい。
立派な言葉をノートへ書き写すこともできる。
じゃが、
「良いことを知っている人」と、
「実際にやっている人」は違う。
勤倹貯蓄が大切だと知っているなら、貯める。
身体が大切だと知っているなら、身体を整える。
一意専心が大切だと思うなら、目の前の仕事に集中する。
本を閉じたあと、
何を一つ変えるのか。
読書の価値は、案外そこにあるのかもしれん。
身体もまた、仕事の一部
そして、意外に強く残ったのが「身体壮健」だった。
どれほど大きな志があっても、
身体がついてこなければ動けない。
仕事をするにも、
本を読むにも、
旅をするにも、
何かを学ぶにも、
身体を使う。
当たり前のことなのじゃが、
目標ばかり見ていると忘れやすい。
身体を整えることは、
仕事とは別の「健康活動」ではない。
長く仕事を続けるための土台そのものなのじゃろう。
事業を育てたいのなら、
事業計画だけではなく、
それを何十年も動かす自分自身の身体も整えなければならない。
そんなことを考えた。
温故知新と、凡事徹底
読み終えて、自分のノートには二つの言葉を書いた。
「温故知新」
そして、
「凡事徹底」。
新しい時代だからといって、
新しいものだけに答えがあるわけではない。
百年以上前に事業をしていた人の言葉から、
現代の自分の仕事を考えることもできる。
そして結局、
毎日の小さなことを疎かにしない。
約束を守る。
仕事をする。
金を貯める。
身体を整える。
学んだことを実行する。
目の前の仕事を続ける。
ずいぶん地味じゃ。
けれど、
人生を作っている時間のほとんどは、
こういう地味な時間なのかもしれんのう。
目の前のものを、もう少し育ててみる
新しいことを始めるのが悪いわけではない。
大倉喜八郎自身、「進取の観念」を重んじている。
新しいことへ挑戦する。
けれど同時に、
始めたものには腰を据える。
この二つは矛盾しないのじゃろう。
進取だけなら、次々と新しいものへ飛びついてしまう。
忍耐だけなら、変化できなくなる。
新しい世界へ踏み出す勇気を持ちながら、
一度選んだものを簡単には投げ出さない。
その両方が必要なのかもしれん。
ふむ。
自分も、まだまだやりたいことは多い。
じゃが、次の新しいものを探す前に、
いま目の前にある仕事を、
もう少し愛してみようと思う。
そして、小さな成功を一つずつ積み重ねる。
身体も整える。
知っただけで満足せず、やってみる。
そんなところから始めればよい。
さて。
あなたが今、
新しい何かへ目移りする前に、
もう少し育ててみてもよいものは何じゃろうのう。






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