たくさん見れば、人生は豊かになるのじゃろうか

企業家ミュージアム
企業家ミュージアム

大阪と京都を、一週間ほど歩いた。

大阪では、神社や寺を巡った。

大阪城にも行った。

企業家ミュージアムでは商人や企業家たちの足跡を見て、適塾では、かつて若者たちが学問に打ち込んだ場所を歩いた。

京都へ移ってからも、ずいぶん歩いた。

三十三間堂、知恩院、高山寺、神護寺、西明寺。

北野天満宮、晴明神社、相国寺、大徳寺。

哲学の道を歩き、銀閣寺へ行き、上賀茂神社と下鴨神社を訪ねた。

西芳寺の苔を眺め、地蔵院の竹を見て、嵐山では渡月橋を渡った。

東寺、建仁寺、六波羅蜜寺にも足を運んだ。

寺や神社だけではない。

本屋へ行った。

喫茶店へ入った。

美術に触れた。

鴨川を歩いた。

一週間で、ずいぶん多くのものを見た。

そこで、ふと思ったのじゃ。

たくさんのものを見ることと、

人生が豊かになることは、

同じなのじゃろうか。

見たものは、驚くほど忘れていく

旅をしていると、その瞬間はよく覚えている。

建物の形。

庭の景色。

説明板に書かれていた歴史。

そこで聞いた話。

ところが数か月もすると、だんだん記憶が混ざってくる。

「あの庭はどこの寺だったかのう」

「あの仏像を見たのはどこだったか」

そんなことが起こる。

少し寂しい気もするが、人間の頭とはそういうものなのじゃろう。

すべてを保存することなどできん。

では、忘れてしまうなら旅には意味がないのか。

もちろん、そんなことはない。

大切なのは「何を見たか」だけではない

今回、大阪では企業家について学ぶ場所を訪ねた。

京都では、長い時間を生き残ってきた寺院や庭を歩いた。

その途中では、自分よりずっと若い世代の人とも話した。

育った時代が違えば、ものの見方も違う。

仕事に対する感覚も違う。

これからの社会についての考え方も違う。

古い寺を訪ねた直後に、若い人の話を聞く。

昔の企業家について学んだあと、現代の街を歩く。

本屋へ入り、知らない本を手に取る。

喫茶店で休みながら、さっき見たものについて考える。

そうしていると、旅とは単に名所を集める行為ではないように思えてくる。

人間は、点を集めながら生きている

ふむふむ。

人生には、そのときには何の役に立つのか分からない経験がたくさんある。

一冊の本。

誰かとの会話。

旅先で見た建物。

学校で習ったこと。

仕事で失敗したこと。

偶然入った店。

その一つ一つは、小さな「点」のようなものじゃ。

点だけを見ても、何の意味があるのか分からない。

ところが何年か経つと、不思議なことが起こる。

昔読んだ本と、最近経験した仕事がつながる。

旅先で聞いた話と、誰かとの会話がつながる。

昔見た景色が、突然ある考えを理解する助けになる。

点と点が、あとから線になるのじゃ。

効率だけでは拾えないものがある

現代は便利じゃ。

知りたいことがあれば、すぐに検索できる。

寺の歴史も調べられる。

大阪城の写真も見られる。

銀閣寺の映像だって、自宅から眺められる。

それなら、わざわざ歩く必要などないようにも思える。

じゃが、実際に歩いてみると違う。

坂が思ったより急だった。

寺から寺まで意外と遠かった。

森の匂いがした。

疲れて喫茶店に入った。

予定していなかった本を見つけた。

誰かと話した。

そういうものは、検索結果にはなかなか出てこない。

効率よく「答え」を手に入れることと、

自分の中に「経験」を蓄えることは、

どうやら別のことらしいのう。

すぐ役に立たなくてもよい

旅の最後に、

「この一週間で人生が変わったか」

と聞かれたら、たぶん分からん。

明日から急に何かができるようになるわけでもない。

収入が増えるわけでもない。

悩みが全部消えるわけでもない。

それでもよいのじゃ。

見たもの。

読んだもの。

歩いた道。

出会った人。

考えたこと。

それらは、すぐには役に立たなくても、自分の中に小さな点として残っていく。

そしていつの日か、

「ああ、あのとき見たものは、こういうことだったのか」

と分かる日が来るかもしれん。

来ないかもしれん。

それでもよい。

人生には、

役に立つかどうかを決める前に、

まず触れてみてもよいものがあるのじゃ。

さて。

最近あなたは、

「役に立つか分からないけれど、なんとなく気になるもの」

に触れておるかのう。

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沙門家鴨(しゃもん-あひる)があがあ寺の管理人
があがあ寺の管理人。
普段はITとエンターテイメントの会社を営んでいます。

寺社を巡り、山を歩き、本を読み、ときどき旅に出ます。
空海をはじめ、仏教・歴史・文化について学ぶのが好きです。

「限りある人生を、どう生きるか。」
そんなことを、よく考えています。

まだ修行の途中。

旅と読書と日々の暮らしの中で考えたことを、ここに書いています。
答えを説くというより、一緒に考えるために。

そんなインターネット上の小さな寺を運営しています。